2010 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
20720028
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
古川 誠之 早稲田大学, 文学学術院, 助教 (10409617)
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Keywords | 西欧史 / 美術史 |
Research Abstract |
本研究は中世ヨーロッパの法資料に付される印章を通じ、主体としての都市の自己認識への接近を、3ヵ年をかけて行った。本年度においては、かかる都市の自己認識がいかなる背景の中に位置づけられるかにつき、中間的結論を提示した。概要を述べるならば、都市印章の図像および銘文によって表象されるその位置づけは、確かにキリスト教図像体系の文脈に則っている。したがってキリスト教的価値観と遊離し、かつ伝統的な研究史において語られてきたような"世俗的で自立かつ自由を求める"都市共同体としての性格づけとは矛盾する"自己認識"がそこには見出される。勃興期の中世都市の自己認識はキリスト教世界の中に自身の表象を見出していると言える。 他方でこの自己認識は、都市自身が独自に生み出したものではないという点で、封建世界の中に自らを位置づけたと見る、研究史上の伝統的な都市観念への論拠を示す。発表文献において明らかになったのは、都市の自己認識さらには「支配の正統性」は、領主たる司教の権威を必ずしも排除しないものとして示されており、さらにはそれをもふまえた根本的な正統性の表象を、神の代理権者としての王権に依拠させているという点である。多元的な権力を統合している王権の表象を模倣する性格が印章には認められる。 しかるにこの"自己認識"と都市共同体との関係は、決して固定的でも安定的なものでもない。中世後期とりわけ13世紀を通して、都市共同体はしばしば伝統的な印章を保ちつつ、いっそう「キリスト教的」に自身を再定義していく傾向が見られる。前年度においては都市エリート層のかかる「再定義」について確認した。今年度には都市共同体が自らの「外部者」をいかに排除することでかかる「再定義」を行ったのか、ユダヤ共同体との関係性を例に確認した。つまり印章成立期とそれ以降において、印章と共同体の関係はなお変化しつつあるとの見通しを示した。
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