2010 Fiscal Year Annual Research Report
中国仏教美術における観仏思想と造形表現に関する研究
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20720029
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Research Institution | Cyber University |
Principal Investigator |
大西 磨希子 佛教大学, 仏教学部, 准教授 (00413930)
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Keywords | 美術史 / 仏教美術 / 敦煌 / 莫高窟 / 観無量寿経 / 十六観図 / 吐蕃 / 綴織当麻曼荼羅図 |
Research Abstract |
今年度は本研究課題の最終年度として、敦煌莫高窟の中唐以降の作例を中心に、これまでに行ってきた実地調査の結果を整理・分析した。その結果、中唐吐蕃期の十六観図は、盛唐期に出現する作例群のうち、『観無量寿経』から逸脱した図像を多分に含んだ図案的で簡略な系統の図を継承していることが明らかとなった。加えて、中唐吐蕃期のほとんどの作例に見られる配列の乱れから、制作にあたって『観無量寿経』等のテキストは全く参照されていなかったことは明らかで、十六観の順を考慮せず諸図像を寄せ集めた晩唐期の白画粉本(P.2671v)が蔵経洞から見つかっていることから、中唐吐蕃期においても同様の粉本が転写に用いられていたことが推測される。したがって、初唐期に認められた、観想念仏の実践と造形表現との関係は、盛唐期には早くも崩れ始め、その後、この傾向は改められることなくむしろ加速度的に乖離が進み、帰義軍期にまで至ったことが作例から跡づけられた。この成果は、『仏教学部論集』95号にて公刊された。 また本年度は、敦煌の諸作例との比較から、日本に伝来する綴織当麻曼荼羅図についても検討した。綴織当麻曼荼羅図は、敦煌の諸作例とは異なり図様が経典に忠実であり、もとになった下絵は、高僧らによる一種の校訂作業を経たものであったと考えられる。したがって、仏教美術においても仏典における所謂「長安宮廷写経」と同様の制作形態が唐代に存在したことが推定される。蔵経洞発現の写経群をみると当時の写経の目的や写経主は一様でなく、ために仕上がりに差があることが見て取れる。同様に仏教美術においても、制作の目的や制作主によって図様の正確さや仕上がりが大きく異なったことが想定されるのであり、敦煌莫高窟の諸作例と綴織当麻曼荼羅図にみられる差は、そうした面から説明することが可能となる。この成果は、『第13回日中佛教学術交流会議発表論集』にて公刊された。
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Research Products
(6 results)