2009 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
20720033
|
Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
吉田 寛 Ritsumeikan University, 大学院・先端総合学術研究科, 准教授 (40431879)
|
Keywords | 聴覚文化 / リヒャルト・ヴァーグナー |
Research Abstract |
本課題での研究を始めて二年目である平成21年度は、聴覚の働き・機能が近代のヨーロッパでどのように捉えられてきたのかを、他の諸感覚(とりわけ視覚と触覚)との結びつきや区別も視野に入れて調査・考察することを第一の目標とした。その成果は、美学会全国大会(東京大学)での口頭発表「聴覚の座をめぐる近代哲学の伝統」に示されているが、その概要を現在論文として学術雑誌に投稿済・刊行中である。そこで明らかになったのは、しばしば「視覚の時代」と見なされてきた近代が、実際には視覚と聴覚の絶えざる鬩ぎ合いの時代であったということだ。それに加えて、劇場設計や舞台効果においてとりわけ聴覚の働きや耳の特性を重視した芸術家として知られるリヒャルト・ヴァーグナーの思想と作品についての個別研究にも取り組んだ。単著として刊行した『ヴァーグナーの「ドイツ」』(青弓社)や日本ワーグナー協会関西例会での口頭発表「ワーグナーの「チューリヒ的転回」」、『フィルハーモニー』掲載の論文「ベートーヴェンとヴァーグナー」がその成果である。ヴァーグナーの考える音楽の価値や「耳」の働きは、彼の「民衆」の理念を理解する上で重要な鍵であることがそれらを通じて論証された。さらに、日本音楽学会全国大会(大阪大学)でのシンポジウム「メンデルスゾーンの「イタリア」」にパネリストとして招聘された際に、「絶対音楽のモデルとしてのイタリア・オペラ?」という口頭発表を行ったが、これは、十九世紀前半のドイツを例に取って、聴覚文化の国民的多様性が過去にどのように認識されていたのかを考察したもので、本課題を側面から補強する研究成果である。
|
Research Products
(6 results)