2010 Fiscal Year Annual Research Report
十五年戦争期における音楽・芸能を用いた文化宣伝――日本から《南方》へ
Project/Area Number |
20720048
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Research Institution | Showa University of Music |
Principal Investigator |
酒井 健太郎 昭和音楽大学, 舞台芸術センターオペラ研究所, 専任講師 (60460268)
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Keywords | アジア太平洋戦争 / 対外文化事業 / 文化的アイデンティティ / 柳澤健 / 日泰文化会館 / 日泰文化協定 / 「国民音楽」 / 「洋楽」と「邦楽」 |
Research Abstract |
本研究は(1)アジア太平洋戦争期に、いわゆる「南方」地域を対象にした日本の文化事業・文化宣伝の実態とそれに関する思想を明らかにすること、(2)「日本」「日本文化」「大東亜共栄圏」といった諸観念が文化的アイデンティティとしていかに構築されたか考察することを目的としている。平成22年度は次の研究をおこなった。 (1)1930年代に日本の対外文化事業に外務官僚として携わり、1940年代前半に日泰文化会館の初代館長を務めた柳澤健に注目した。柳澤の行動と思想ならびに日泰文化会館の事業に関する史料を収集・整理し、柳澤のタイにおける事績をまとめた論文を執筆した。その際、柳澤研究には史学的な意義のみならず現代的な意義があることを指摘した。 (2)タイ王国の国立図書館にて、日系英字紙“Bangkok Chronicle”やタイ字誌『〓〓(日本-サヤーム)』(日本サヤーム協会発行)等の史料を閲覧し、1940年前後の日本-タイ間の文化交流の実態に関する記録を収集した。これらの史料の分析は今後の課題である。 (3)1940年代前半の日本の音楽専門雑誌・新聞等のうち「国民音楽」について論じた記事を、日本の伝統的な楽「邦楽」と西洋由来の近代的な音楽「洋楽」とをいかに扱うべきと主張したかという視点から分析した。その結果、当時の音楽関係者が「日本人が古来より外国由来の文化を同化して新しい文化を創造してきたこと、またそうする能力を持っていること」を重視し、それがいわば日本音楽界の文化的アイデンティティとして機能したと考えられることを指摘した。この成果は国際会議にて発表し、これをもとに当時の楽壇の文化的アイデンティティのありようを考察する論考を執筆した。なお、ナショナリズムに関する研究は多いが、ナショナリズム観念の土台を形成するアイデンティティについての考察は少ない。研究の深化が求められよう。
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