2009 Fiscal Year Annual Research Report
「報知新聞」にみる野村胡堂の文学観―報知新聞記者から『銭形平次捕物控』の作者へ―
Project/Area Number |
20720058
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Research Institution | Nagoya City University |
Principal Investigator |
谷口 幸代 Nagoya City University, 大学院・人間文化研究科, 准教授 (50326162)
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Keywords | 野村胡堂 / 報知新聞 / 新聞小説 / メディア / 文学観 |
Research Abstract |
平成21年度は、大正7年から15年までの「報知新聞」文芸欄の傾向と新動向を調査した。前年度同様に国会図書館所蔵のマイクロフィルム、野村胡堂・あらえびす記念館等のお世話になった。 まず講釈師松林伯知の「水戸黄門記」連載から派生した新企画の連載読物「晴山茂吉善根旅行」に着目した。胡堂と同僚が特派員をつとめているが、従来の胡堂研究では殆んど無視されて来た。これは講談読物に慣れた読者を想定し、虚実入り乱れた滑稽な語り口で、ご当地を訪れる筆者の正体を読者に推理させる謎解きの面白さをちりばめ、現地取材と現地通信による読者参加型のドキュメンタリー風の連載読物であった。こうした実験を重ねて、同僚の矢田挿雲の名作「江戸から東京へ」が生まれたのである。 次に学芸部長として胡堂が紙面に起用した作家の傾向を検討した。新進作家の抜擢から、文壇からは菊池寛ら多彩な顔ぶれが起用されている。胡堂の狙いは、書き手の充実、新聞小説の質の向上、新しい分野の開拓に置かれていたと考えられる。 さらに書き手としての胡堂自身も、「二万年前」と「大東京」を執筆し、科学、哲学、小説を超えた「科学小説」への志向や、物語、案内記、繁昌記の全ての面白さを併せ持ちながら、そのどれでもない新しい連載小説への挑戦があったことを浮かび上がらせた。 大正期に始まった輪転機印刷の普及による劇烈な発行部数競争を背景に、胡堂が文壇の趨勢や読者の好みの変化を把握し、古い講談型小説からの脱皮をはかり、従来の連載読物の枠を超えた新しい新聞小説の創出をめざしていたとの結論を得た。これは胡堂が時代の要求に応え、純粋芸術とは別の新聞文学というジャンルを切り開いたことを意味する。彼の視点は常に現代文学の新たな展開を予見するものだった。
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Research Products
(1 results)