2008 Fiscal Year Annual Research Report
寺院文化圏から見た延慶本『平家物語』の文化史的研究
Project/Area Number |
20720062
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Research Institution | Meiji University |
Principal Investigator |
牧野 淳司 Meiji University, 文学部, 講師 (10453961)
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Keywords | 国文学 / 平家物語 / 中世寺院社会 / 唱導 / 資料学 / 中世仏教史 |
Research Abstract |
延慶本『平家物語』の成立過程を、寺院文化圏に注目する立場から考察した。平維盛の身投げ物語と、巻六・弘法大師の宗論説話について検討した。いずれも寺院における唱導や訴訟といった活動に注目して、『平家物語』を読み解いたものである。 『平家物語』巻十で維盛は、那智沖に自ら身投げして果てる。妻子への未練を最後まで捨てきれずにいた維盛を自死へと導いたのが滝口入道であった。このような迷いを振り切っての入水という物語は、『発心集』『閑居友』『とはずがたり』と比べた時、往生の理想的なあり方を立ち上げたものと位置づけることができることを示した。 『平家物語』巻六の弘法大師宗論説話(弘法大師が宮中で他宗の学匠との対論の末、即身成仏の奇瑞を見せたという話)については、天台記家の編纂物である『渓嵐拾葉集』に類話があり、これまで指摘されてきた資料の中で、これが『平家物語』に最も近似する構造を持つことを指摘し、宗論説話が十四世紀初頭の延暦寺と真言寺院との間の相論(訴訟)の中で生成されてきたことを明らかにした。 寺院資料自体の研究成果としては、『東大寺本末相論史料』(共著)を刊行した。これにより、東大寺と醍醐寺の問で争われた本末訴訟に関する資料の全貌を示すことができた。寺院間訴訟について、今後研究するための基礎になるものである。
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