2009 Fiscal Year Annual Research Report
寺院文化圏から見た延慶本『平家物語』の文化史的研究
Project/Area Number |
20720062
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Research Institution | Meiji University |
Principal Investigator |
牧野 淳司 Meiji University, 文学部, 准教授 (10453961)
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Keywords | 国文学 / 平家物語 / 寺院文化 / 唱導説経 |
Research Abstract |
延慶本『平家物語』の成立過程を、寺院における文筆活動に注目する立場から考察した。 具体的には、東京大学史料編纂所に所蔵される諡号相論(鎌倉時代後期に延暦寺と東寺との間で起こった訴訟)関係資料の調査を行った。現段階では、資料紹介や論文の形で報告すべき内容のものは見いだしていないが、今後も調査を継続していく予定である。同時に、国立歴史民俗博物館所蔵『転法輪鈔』(天台宗安居院流の説経資料)の翻刻作業を進めた。平成22年度中にはその成果を報告書にまとめる予定である。これにより、日本中世の寺院で行われた唱導説経の実態解明がいっそう進展することになるはずである。 延慶本『平家物語』の本文に即した研究としては、巻十の熊野関係章段に注釈を付ける作業を行った。延慶本が唱導説経で用いられた表白句や語彙をふんだんに取り入れて平維盛熊野参詣記事を組み立てている様子を明らかにできた。 上の研究とは別に、仏教と延慶本『平家物語』に関する研究史を整理し、今後の考察を展開していくための指針を示した。特に、寺院で行われた文筆活動(訴訟文書作成や唱導説経のための学問活動)を総体的にとらえながら、延慶本を中世寺院文化の中に位置づけていくべきことを述べた。また、宗教文化教育において『平家物語』が大きな魅力を秘めた教材になり得ることを学会シンポジウムで発表した。
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