2009 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
20720078
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Research Institution | Kitasato University |
Principal Investigator |
吉田 朱美 Kitasato University, 北里大学一般教育部, 講師 (30406889)
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Keywords | 19世紀末 / George Egerton / Mona Caird / 新しい女 / 聴覚 / 共感能力 / George Moore / 音楽的感受性 |
Research Abstract |
本年度は昨年度に引き続き、George Egertonの短編小説中で聴覚や音楽的感性が果たしている機能についての分析をおこない、その成果を口頭発表として報告した。またその作業と平行して、Egertonと並んで英国19世紀末の「新しい女」を代表する1人であるMona Cairdの作品や、同時代の反フェミニズム論者による著作物の収集・分析をすすめた。グラスゴー大学で行われたIASIL 2009年度学会における発表では、聴覚を中心とした身体感覚や音の動きをたどるEgertonの語りが、教会や国家など人工的・文化的に構築された制度により磨耗させられた人間本来の共感能力をどのように回復しようとしているかについて論じた。社会・文化を超越した身体的・感覚的な体験の共有性を重視するEgertonの姿勢に関しては、従来主にセクシュアリティや肉体の解放といった面から論じられ、また本質主義的であり優生学的な面もあるとの批判がなされてきたが、本発表においては、音楽的感受性や聴覚を通じた痛みの共有による共感能力の再生という面から短篇集Symphoniesの肯定的な評価を試みた。9月にアイルランドで出席した「アイルランドと世紀末」学会では、George EgertonおよびGeorge Mooreにそれぞれ一つのパネルが割り当てられており、これらの作家が世紀末文化研究の場において重要な位置を占めていることを再確認することができた。
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