2009 Fiscal Year Annual Research Report
ヴィクトリア朝の出版形態がトロロプの小説に与えた影響について
Project/Area Number |
20720081
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Research Institution | Azabu University |
Principal Investigator |
委文 光太郎 Azabu University, 獣医学部, 講師 (70367241)
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Keywords | アントニー・トロロプ / 『最後のバーセット年代記』 / 『英国国教会の聖職者たち』 |
Research Abstract |
研究の2年目にあたる本年は、初の週刊分冊形式により発表されたトロロプの「最後のバーセット年代記』(1867)を取り上げて、分冊出版というスタイルがこの作品にどのような影響を及ぼしているのかを考察した。その結果、32号からなるこの作品のほぼすべての号において,登場人物による類似または対照的な行動が挿入されていることがわかり,トロロプが長い物語の一部分にすぎない1つの号に,個としての一体感を持たせようと試みていたことが明らかとなった。さらに、今回の研究のために訪れたイエール大学バイネッケ図書館所蔵の『最後のバーセット年代記』の原稿を詳細に検討した結果、出版者であったジョージ・スミスの意向により、すでに書き終えていた第1号の構成変更を迫られたトロロプが、具体的にどの部分をどのように修正したのかがわかり、今回の研究を進める上で大きな助けとなった。しかし、ロンドン大学の旧ウェストフィールド・カレッジに一時的に所蔵されていたことまでは判明している『最後のバーセット年代記』の作業日誌の所在は、結局確認することができなかった。そのため今回の研究では、ある論文にたまたま掲載されていたその作業日誌の一部を参照するにとどめた。なお、この研究成果は「「まとまりあるもの」を求めて-トロロプの『最後のバーセット年代記』」(『英米文化』、第40号)として論文にまとめた。 また、『最後のバーセット年代記』の主人公が英国国教会の副牧師であったことから、この作品の直前に新聞に連載されていたトロロプの『英国国教会の聖職者たち』(1866)を取り上げて考察した結果、当初の連載予定にはなく急遽追加されたあるひとつの章が、『最後のバーセット年代記』の着想の源であることを示唆する内容だと判明した。そこで、この研究成果を「追加された2つの章:TrollopeのClergymen of the Church f England」(『ヴィクトリア朝文化研究』、第7号)として論文にまとめた。
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Research Products
(2 results)