2008 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
20720091
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
井上 櫻子 Keio University, 文学部, 助教 (10422908)
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Keywords | 仏文学 / 美学 / 哲学 |
Research Abstract |
描写詩という今まで等閑視されてきたジャンルの作品を再発掘し、これらの作品をルソーやディドロといった思想家の人間論、美学論考との関連を探りながら、18世紀の韻文の重要性を浮き彫りにすることが研究の目的である。「研究実施計画」に示したとおり、今年度はルソーが思想家として成熟する時期に執筆された『新エロイーズ』にみられる自然描写と描写詩との関連について考察をすすめた。描写詩にかんする資料は日本ではほぼ入手不可能であるため、夏に2週間あまりパリのフランス国立図書館にて資料収集をおこなった。その結果、ルソーがその著作において繰り返し強調する自然への愛は、彼独自のものではないことが明らかになった。彼は田世紀後半、素朴な田園生活を賛美する描写詩がフランス文学界で流行したことを強く意識していたのである。そして、同時代の読者の心をとらえた「自然の賛歌」という主題を『新エロイーズ』という思想的小説で扱うにあたり、ルソーがどのように独自の人間論を踏まえて変奏しているかということを検討した。これら一連の研究成果を、国内外の学会において口頭発表し、日仏のルソー研究者と意見交換をおこなった。さらに、今年度の考察結果の一部を大学紀要への投稿論文にまとめるとともに、フランスで出版された韻文にかんする論文集にも発表した.また現在、ルソーについての学部生むけ入門書『ルソーを学ぶ人のために』(桑瀬章二郎編、世界思想社)に収録予定の『新エロイーズ』にかんする解説も準備中である。このような研究と並行し、20世紀に活躍した欧米の18世紀研究者たちの自伝を共同で翻訳した(『十八世紀研究者の仕事-知的自伝』、法政大学出版局)。今年度の調査結果をふまえ、来年度はルソーの自伝における自然描写と描写詩との関係を探るとともに、西洋における田園詩の伝統とその甲での描写詩の位置づけを試みたい。
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Research Products
(7 results)