2011 Fiscal Year Annual Research Report
現代イランにおける「詩の夕べ」の社会的・文化的機能の研究
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20720095
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
前田 君江 東京大学, 大学院・総合文化研究科, 非常勤講師 (40466818)
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Keywords | イラン / ペルシア / 文学 / 現代詩 / 中東 / イスラーム |
Research Abstract |
第三年度目にあたる今年度は、「詩の夕べ」の海外イラン人コミュニティーへの広がりとともに、「詩の夕べ」という文化現象において最も重要な詩人であるアフマド・シャームルー(1925-2000)に注目して研究した。 1)まず、時代背景として、1979年のイスラーム革命を機に、イラン国内において、「詩の夕べ」の開催や文学集会が規制されたことが挙げられる。同時に、政治的・文化的自由を求めて、多くの知識人が、アメリカ・ドイツ・北欧などに亡命し、巨大なイラン人コミュニティーを形成するようになる。彼らは、イランへのノスタルジーや文化的アイデンティティの確認、さらには、革命体制批判の手段として、「詩の夕べ」をはじめとする詩の朗読会がさかんに行い、ときにイラン本国から人気詩人を招いた。そのなかで最も人気を博した詩人が、シャームルーである。 2)革命により、国内での出版や文学活動を制限されたシャームルー自身の文学的閉塞感と、海外コミュニティーにおける詩への希求が一致したことにより、シャームルーの詩の「海外公演」がはじまった過程を明らかにした。 3)また、資料に基づき、海外の詩の夕べで朗唱された詩のほとんどが、革命前に書かれた反体制の社会詩・政治的抵抗詩であったことを明らかにした。これらは、旧王政による政治的抑圧への抵抗、次々と惨殺される若き政治犯らへの挽歌として書かれながら、王政打倒後は、王政を倒した張本人である新体制への批判として読まれるようになる。これらの詩の受容(読み)を再創造・再生産した文学的磁場として、海外の「詩の夕べ」が機能していたことの証左でもある。 4)さらに、シャームルーによる上記の社会詩・抵抗詩における詩的技法と詩形態についても分析し、初期詩作、および、非韻律詩の詩的リズム確立の過程で多用された反復やリフレイン技法、さらに固有名の効果的仕様などが重要な詩的機能を果たしていることを明らかにした。
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