2010 Fiscal Year Annual Research Report
東西資料によるモンゴル時代の政治・文化交流の解析と実証
Project/Area Number |
20720096
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
宮 紀子 京都大学, 人文科学研究所, 助教 (60335239)
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Keywords | モンゴル時代 / 大元ウルス / フレグ・ウルス(イルハン国) / 『集史』 / ケシク / テュルク・モンゴル語 / 『書記規範』 / 東西交流 |
Research Abstract |
モンゴル時代の中国・朝鮮半島・日本の文化交流を実証する資料を多く所蔵している京都の建仁寺両足院において漢籍(宋元明刊本・五山版・抄本)、抄物の調査を行ったほか、京都大学附属図書館、文学研究科において関連資料を収集した。いっぽう、同時期のペルシア語・アラビア語資料(歴史史料、百科事典)の収集を継続し、とくに今年度は14-15世紀にフレグ・ウルス、インドの各王朝において編纂された多言語の辞書を重点的に調査、収集することにつとめた。また、13-15世紀のヨーロッパとフレグ・ウルス、ジョチ・ウルスの交流にも視野を広げ、1800年代後半以来、フランス、ドイツ、イタリアの各雑誌に掲載・報告された文書資料やヴェネツィアやフィレンツェの商人等が書いた報告書・年代記等の典籍類も収集した。これらの資料を踏まえ、東西のモンゴル朝廷を通じて、その基本たる国家体制・軍事・行政を解き明かすカギとなるケシク(カアン、諸王を取り巻く側近・侍衛)制度から、まずはマルコ・ポーロの『東方見聞録』にも紹介されるブラルグチをとりあげた(モンゴル時代の二大資料群たるペルシア語資料、漢籍には、テュルク・モンゴル語語彙が音訳、意訳のかたちで相当量遺されている。それらの解明こそ匈奴以来現在にいたるまでのユーラシアの遊牧国家を理解するうえで最初の且つ必須の作業である)。ラシード・ウッディーンの『集史』、同じくフレグ・ウルスにおいて編纂された各役職の任命書集『書記規範』、大元ウルス側の政書である『元典章』『通制条格』『至正条格』等の記事、同時代の碑刻を詳細に比較、検討した結果、(1)大元ウルス治下、一見、『周礼』に法った中華風の官職名を踏襲していても、すべてケシク集団が基本となっていたこと、(2)しかもその伝統・システムは、歴代の鮮卑拓跋国家、はては匈奴国家にまでさかのぼること、(3)モンゴル時代の数々の政変の背後には、ブラルグチ、バウルチ、シャルバチ等各ケシク集団の争いが潜んでいること、(4)ブラルグチがカネと権力を握った理由等、じゅうらいの一言語資料、一分野に限定された研究からはみえてこなかった事実がいくつも明らかとなった。
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Research Products
(2 results)