Research Abstract |
本年度は,前(後)置詞句の意味と動詞(特に変化述語)の意味の相互関係を明らかにすることを目的として,以下のようなことを行った。変化述語は,いわゆる状態変化(e.g.cool, lengthen, open)と位置変化(e.g.come, go, rise)に分類できる。後者の位置変化述語には,本来,非変化述語であるwalk, run等の移動様態動詞とto, intoなどの前置詞句が共起した動詞句(walk to, run into)が含まれることがある(派生的変化述語)。これらの変化述語に含まれるスケール構造を明らかにするために,(1)数量詞句の解釈,(2)by+数量詞を許すかどうかを検討した。 (1) a. The soup cooled (by) 5 degrees Celsius. b. John walked to the station (*by) 500 meters. (2) a. The temperature dropped (by) 5 degrees Celsius. b. Galileo dropped the ball (*by) 55 meters. (1a-b)は,派生的位置変化述語ではby数量詞が不可能である一方,状態変化動詞ではby数量詞が可能であることを示し,(2a-b)は,同じ動詞でも状態変化(2a)か位置変化(2b)によってby数量詞の容認性に差があることを示している。また,(1a),(2a)では,数量詞の解釈が比較級での数量詞の解釈(John is two centimeters taller than Bill (is). )と同様,変化前の値との「差の解釈」であるのに対し,(1b),(2b)では原形での数量詞の解釈(John is 180 centimeters tall. )と同様,スケール上のゼロ点からの計測の解釈となる。したがって,(3)のように前置詞句によってスケール上のゼロ点からの計測を強制すると,by数量詞と共起しない。 (3) *Today, the temperature has dropped to 10 degrees Celsius by 5 degrees. こうした観察から,変化述語におけるスケール構造は,いわゆる状態変化的解釈における「差の解釈」といわゆる派生的変化述語や位置変化述語における「絶対的解釈」において,段階性形容詞における数量詞の解釈と並行していることを明らかにした。
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