Research Abstract |
本年度は,本研究課題の最終年度である。平成20年度,21年度に実施したサハリン,東京,稚内,旭川,韓国で実施したフィールドワークによって収集したデータ,北海道大学付属図書館,北海道立文書館における文献調査によって得られたデータを用い,考察を行った。その結果を学術雑誌,学術論文,および国内外の国際会議,海外の大学での講演などを通して報告した。それによって得られた結果は以下の通り。 (1)北海道方言と樺太方言は,終戦時までの時期においては,類似した変化をとげた。両者の類似性については,現地調査からも確認できた。また,樺太旧島民らによって編纂された樺太方言集などに採録されているものに北海道方言と共通するものは少なくない。その意味でも両者は同じような体系を終戦時までは持ち合わせていたとおもわれる。 (2)戦後の北海道方言,樺太方言は,それぞれを取り巻く社会言語学的状況の変化により,言語体系面でも変化が生じた。北海道方言は道内での地域差をともないつつも東京語化を志向する変化が生じる一方で,樺太方言は個人差が顕著になる変化をとげるようになった。 両者が形成される条件は類似していたが,社会言語学的状況が異なることによって,その言語変容の方向性が両者の間に差異を生むことになった。本研究課題では,これまで研究がなされてこなかった樺太方言の変容を北海道方言と比較したところに最大の意義がある。接触方言を扱うという点でも研究の重要性は高いと考える。
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