2011 Fiscal Year Annual Research Report
中国語を母語とする日本語学習者による長母音の産出傾向と母音の範疇知覚化
Project/Area Number |
20720135
|
Research Institution | Kokushikan University |
Principal Investigator |
栗原 通世 国士舘大学, 21世紀アジア学部, 准教授 (40431481)
|
Keywords | 日本語音声習得 / 中国語母語話者 / 長母音 / 知覚範疇 / 日本語教育 |
Research Abstract |
語頭母音の長短の知覚判断境界について、語の音節構造、母語、日本滞在期間の長さとの関係から調査した。東京方言話者が発話した、たーたー(CVRCVR)、たーたん(CVRCVN)、たーたた(CVRCVCV)の3語各語の語頭母音を0.15倍刻みに0.25~1.15倍に伸縮させて母音の長さが異なる7つの刺激を用意し、音節構造別に母音長短の同定実験と刺激対の弁別実験を行った。中国語北方方言母語話者で日本滞在短期群(6ヶ月未満)12名、長期群(1年以上)8名、東京または神奈川方言母語話者8名の結果を分析した。中国語母語話者は群間で日本語能力に差がないこと、分析対象者は全員、チャップマン利き手テストより右利きであることを確認した。ここでは、同定実験の結果のみ報告する。母音長短の判断が50%になる音韻境界値は、Ylinen et al.(2005)より算出した。 まず、群間比較の結果、第二、三音節がCVCVの場合のみ、長期滞在群の方が日本語母語話者よりも判断境界値が大きく、滞在期間が長ければ日本語母語話者の母音長短の判断境界値に近づくわけではないことが分かった。次に、全群で第二音節がCVRの場合は他の構造よりも語頭母音の判断境界値が大きいことが確認され、語末位置に長母音がある場合に語頭母音を長母音として判断するためには、語末に長母音が含まれない場合よりも語頭母音の持続時間が長くなければならないことが分かった。この結果から、母語や滞日期間に関わらず、語頭母音の長短判断には語の音節構造が影響を及ぼすことが示唆された。語頭母音の後がCVR構造以外、つまりCVN、CVCVの場合、日本語母語話者のみCVCVよりもCVNの方が語頭母音の判断境界値が大きいことが分かった。このように、日本語母語話者と中国語母語話者とには母音の長短知覚の様相に違いが見られ、今後、母語の音声的な特性等の面より検討する必要がある。
|