2010 Fiscal Year Annual Research Report
中世アキテーヌ公領統治における空間とコミュニケイションの諸相
Project/Area Number |
20720196
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
加藤 玄 日本女子大学, 文学部, 准教授 (00431883)
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Keywords | フランス / イングランド / 中世 / 都市 / 請願 |
Research Abstract |
最終年度である平成22年度は研究遂行に必要な文献類を購入するとともに、イングランド王とガスコーニュの被統治者間のコミュニケイションの一端を明らかにするために、後者から前者に宛てられた請願文書の具体的な検討を行い、次の知見を得た。すなわち、貴族による請願に対するイングランド政府の処理は比較的スムーズであった。ガスコーニュ戦争時にイングランド側に味方した貴族層に対し、様々な形で報いることで王=公への「忠誠」を維持しようとする統治者側の特別な配慮が働いていたと考えられる。他方、市民同士の紛争は解決に長期間を要し、さらに請願が解決に役立ったのかも不明であった。公領の司法制度との関わりを考慮するならば、請願は上訴手段としても機能したが、今回の検討においては、国王側の対応が確認できたのは、あくまでも公領役人の不正(請願者の主張によれば)の是正のみであった。しかし、具体的な損害の回復を訴える先として、ガスコーニュの住人がパリのパルルマン=フランス王ではなく、イングランド王を選択したことは無視できない。自身の法的な帰属先に対する住民の認識を示す証左と言える。以上の成果は、学術雑誌に公表する予定である。 8月31日~9月16日まで、フランスのトゥルーズに滞在し、地方史関連文献の収集に努めるとともに、トゥルーズ大学教授J.-L.アベ氏と研究打合せを行った。 本年度の研究成果の公表物として、吉田伸之・伊藤毅編『伝統都市1イデア』(東京大学出版会)中の「バスティード」を得た。イングランド国王が新設した都市群に関して、当時の政治・経済状況や都市プランから、設立の世俗的な意図を指摘した論考である。
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