2011 Fiscal Year Annual Research Report
近世フランス都市社会における「他者」との共存に関する研究
Project/Area Number |
20720198
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
小山 啓子 神戸大学, 大学院・人文学研究科, 准教授 (60380698)
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Keywords | 近世フランス / リヨン / 外国人 / 免税特権 / 帰化 / 市民権 / 遺産没収権 / 同郷団 |
Research Abstract |
本研究は、近世フランスの都布リヨンを中心に、都市における外国人や宗派的・政治社会的「他者」との対立と共存の実態を調査することを通じて、宗教戦争期に醸成された新たな都市的共生空間の特質を明らかにすることを目的とした。 かつて1538年に国王フランソワ1世がリヨン市参事会に対し、リヨンに居住するフィレンツェ人、ルッカ人、他の外国人の免税を封印状で命じたように、外来商人は王権の保護のもと税から免除されていた。しかしながら、この外国人特権は1571年以降廃止されていくことになる。祖国フィレンツェに戻ったリヨンの銀行家によるアンリ4世への請願書(1594年)では、リヨンに戻る希望が示されながらも、そのためにはリヨンで古来享受してきた外国人特権を復活することが要求されている。この免税特権の廃止は、外来商人がリヨンから出て行く原因の1つになったと思われる。こうして外国人は帰化状や市民権を得て都市に完全に「同化」するか、退去するかという、これまでになかった二者択一の選択を迫られるようになった。それ以前のリヨンでは、外国人であっても比較的自由に居住できたし、身分や立場の曖昧さが問題になることも少なかった。しかし宗教戦争以後、リヨン社会への「同化」を選択しない大商人や実業家は、1年と1日という短期の滞在で市民権が得られるパリやその他の市場へと利益を求めて立ち去っていったのである。 帰化は個人と家族における生存戦略の選択肢の幅を拡大し、制度的保障を与えることになった。外国人が帰化を準備するのは、複数の次元に及ぶ多様な背景があった。祖国の政治的圧力や、雇用機会、家族戦略、財産保護欲求など、複合的要因が帰化の直接・間接の契機となると同時に、都市社会の受け入れ環境も影響を及ぼしたであろう。こうした中で都市の同郷団が果たした役割と、同郷団を介した都市社会との関係、都市行政や社会福祉事業への参入・貢献についてはさらに今後の課題としたい。
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Research Products
(2 results)