2009 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
20720200
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
高草木 邦人 Nihon University, 文理学部, 助手 (60453867)
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Keywords | 近代ルーマニア / 議会政治史 / 政党政治史 |
Research Abstract |
20世紀転換期ルーマニアにおいて、大多数の住民でもある農民は選挙制度によって排除され、そして選挙の実践では二大政党が排他的に議席を確保することで、弱小政党は国政においてほとんど参加することはなかった。もちろん、この「閉鎖的」な体制に対して、改革志向を持つ知識人は批判・反発した。しかし、社会民主労働者党の事例からもみられたように、その挑戦は決定的なものとはならず、むしろ知識人たちに自らの運動の限界を認識させる結果となった。さらに、当該時期において農民の境遇改善に寄与し、「農村の知識人」と評されていた初等教育教師の運動もその職業利益が現体制に深く組み込まれ、その社会的役割の飛躍も既存政党からの支援によるところもあり、この「閉鎖性」を打破するものではなかった。この体制に対する決定的な挑戦や一撃が不在しているなか、各社会層はその利益や理想・目的などを直接的にではなく、二大政党という媒体を通して、間接的に追及することになった。一方、二大政党側においても一定の階層の利益や理論を間接的に吸収することで、農民政党の決定的な出現を抑えた。土地問題では、保守党は地主優位な現体制の維持とそれに付随する貧農救済を、自由党は工業化政策の前提段階としての富農優遇政策をその基本路線とした。特に、自由党は農業を副次的に扱っているにもかかわらず、結果的に、私的所有の強制的収用、所有制限、さらに一定の農民階層への土地分割という政策を掲げることになった。選挙権改革に関しては、「政治的に未成熟」な農民に一定の規制をかける単一選挙部会案が自由党によって支持されていく。同案は普通選挙権という「遠い理想」ではなく、体制内で実現可能なものとして、体制に組み込まれた左派勢力に理論的な根拠を与えた。以上の議論の結実として生じた自由党の二大改革案は、全体として誇大化と形骸化を引き起こすほど曖昧なものであり、また各階層間で二大改革への捉え方に差異や齟齬が生じていた。しかし、それは建国50年を迎えたルーマニアの到達点であったのである。
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