2010 Fiscal Year Annual Research Report
大戦間期におけるグローバルな環境危機論の形成とイギリス帝国
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20720202
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Research Institution | Kyushu Sangyo University |
Principal Investigator |
水野 祥子 九州産業大学, 経済学部, 准教授 (40372601)
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Keywords | 土壌浸食 / イギリス帝国 / 大戦間期 / グローバル / 環境 / 植民地科学者 / 土壌保全 / ネオ・マルサス主義 |
Research Abstract |
世界で同時多発した土壌浸食に対する危機感から、1930年代には帝国農業局、帝国土壌科学局、植民地省、植民地当局などの間で科学者/行政官のネットワークが形成された。このネットワークによって帝国各地から土壌浸食に関する情報が集められ、各地のケースを分析し、比較し、共有する場がつくられたのである。このネットワークにはダスト・ボウルによる惨状を立て直すためアメリカ農務省に新たに設置された土壌保全局も含まれていた。ローデシアやケニア、インドなどから科学者がアメリカの土壌保全対策を学ぶべく派遣され、得られた情報は報告書や論文、著書を通してイギリス帝国内で共有された。土壌保全に関するアメリカの研究は模範とされており、実験結果を入手して、対浸食の技術を更新し、自分の調査・管理対象地域の状態と比較し、適用することが求められたのである。 この過程で、土壌保全に関して普遍化されたモデルプランの構想が進んでいった。土壌浸食の原因をめぐっては議論があったものの、現地住民の土地利用の方法が非合理的で、破壊的だという指摘や、かれらの人口増加が土地への圧力となることを問題視するネオ・マルサス主義的な主張が主流になっていった。科学者/官僚は、資源を保全し、土壌の生産力をあげ、現地住民の栄養状態を改善し、かれらが社会的・物質的繁栄を享受できるようにすることを新たな植民地開発の目的に掲げ、政府に対してより積極的に介入するよう迫ったのである。
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