2010 Fiscal Year Annual Research Report
タイ東北部における蛇毒の治療実践をめぐる知識人類学:日常的理解の分析枠組の構築
Project/Area Number |
20720239
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Research Institution | Fukui Prefectural University |
Principal Investigator |
津村 文彦 福井県立大学, 学術教養センター, 准教授 (40363882)
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Keywords | タイ王国 / 文化人類学 / 医療人類学 / 知識人類学 / 伝統医療 |
Research Abstract |
平成22年度に実施したフィールド調査では、伝統医療と近代医療の共存の様子が具体的に明らかとなった。調査村周辺では、伝統的な医療専門家が活動を行っているが、同時に村落住民は近代医療に依存していることがわかった。調査村でのインタビューによると、病いや怪我の際に、行政村の保健センターや郡の病院で一次的な治療を受けることが一般的である。近代医療の施設が村落部にまで設置されるとともに、村落間の道路が整備されたのは1980年代半ば以降のことで、医療面でのインフラが整うにつれ、住民の近代医療へのアクセスは大いに高まっているといえる。 さらに、2001年より当時のタクシン政権によって導入された「30バーツ医療制度」によって、安価な公的な医療サービスが可能になると、村落部の住民の近代医療へのアクセスは経済面からもより容易になった。行政村の保健センターでの治療が十分でないと判断されると、郡立や県立のより大きな病院での治療を躊躇することがなくなった。 だが「30バーツ医療」を受療できる国立病院への患者が殺到するために、病院での待ち時間が長く、治療にはわずかな時間しかかけられないという悪評も多く聞かれた。「30バーツ」という額は、伝統医療師に支払う謝礼とさほど変わる額ではないため、近代医療という選択肢はもはや伝統医療とさほど変わらなくなった。だが、だからこそ逆に伝統医療の強み(個別の治療にかける時間の長さ、患者個人の履歴の重視)がより注目され、評価されている様子が明らかとなった。
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