2010 Fiscal Year Annual Research Report
中国の葬儀改革に関する社会人類学的研究:国家と人々を媒介する分節集団の事例研究
Project/Area Number |
20720245
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Research Institution | Fukuoka University |
Principal Investigator |
田村 和彦 福岡大学, 人文学部, 准教授 (60412566)
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Keywords | 中国研究 / 生死学 / 社会人類学 / 文化人類学 |
Research Abstract |
本年は最終年にあたり、昨年までのインタビューおよび文献収集の結果を踏まえて、以下の調査研究を中心におこなった。1)火葬場での調査者の実働、2)労働者の技術の習得過程の調査、3)文献調査における火葬普及期間の作業の再構成と、退職作業者を中心とする人々の記憶による初期の火葬状況の再構成の比較を主要な作業とした。 時間をかけて繰り返し同じ火葬場を訪問調査することで、一定の信頼関係を構築することができ、従来困難とされてきた火葬場で働く人々の作業への参与観察のなかから、遺体の処理を巡る技術の変化、現場知のありようを考察し、こうした微細なレベルから死をめぐる文化変容を捉える考察を可能とした点が大きな成果といえる。 この作業の結果、従来の中国の死をめぐる諸研究では、文献資料の分析を中心とする政策の変化や、葬儀に遭遇した遺族の側からの断片的アプローチが中心であったが、本研究では、国家の定める政策と遺体の適切な処理を必要とする人々を媒介する集団としての殯儀館従業員(遺族接待係、火葬従事者)の役割に注目し、かれらを社会的間接と捉えて、現代中国における死の位置づけの変容における作用を考察することが可能となった。文字化されていない知識の集積として火葬という新たなテクノロジーが運用されていることを再確認するとともに、政策とその運用、先行する文化知識が実践のなかで多様な形式を生みだし、試行錯誤を経ながら新たな遺族へのサービスとして定着し、現代中国の遺体処理の政策にも部分的に影響を与えうるような双方向性があることを明らかにすることができた。 残された作業として、本研究は現在火葬が普及しつつある西北地域の殯儀館を調査対象としたが、ここで得られたモデルがどの程度の射程をもつものであるかを検討できなかった。今後、上海や北京といった中国における火葬普及政策の先進地域における同様の調査が必要となろう。
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