2008 Fiscal Year Annual Research Report
フランスならびにイタリアにおける国家の非宗教性原則の運用と文化の多様性
Project/Area Number |
20730011
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Research Institution | Iwate University |
Principal Investigator |
江原 勝行 Iwate University, 人文社会科学部, 准教授 (60318714)
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Keywords | 公法学 |
Research Abstract |
2008年度においては, フランスにおける失業問題や移民の受入れ問題を背景とした社会的排除の問題を憲法学上の人権論の観点から是正するための理論を探究するという観点から, フランスにおける国家の非宗教性原則と現代社会における文化的多様性との関係について, 関連文献の収集・検討および他の憲法研究者との議論から以下の考察上の成果を得ることができた。まず, フランスにおける国家の非宗教性原則が共和主義を実現する際に果たしてきた歴史的役割を跡づけることにより, 特に教育における国家の非宗教性原則の機能を「反省的疎隔化」の促進に求めるという観念に到達した。また, 国家の非宗教性原則は, そのような「反省的疎隔化」作用という意義を有しつつも, 文化的・宗教的アイデンティティの多元性に適応しうる原則として想定されうるという解釈の正当化を試みた。この視点においては, 国家の非宗教性原則は, 国家と教会の分離という体制の下, 信仰に対する処遇上の平等と信仰上の表現の自由を保存する術として再解釈される。さらに, 国家の非宗教性原則と平等原則との関係についても考察を行い, 共同体に留保された集団的諸権利の保障を要求する多文化主義と, 個人の人格の発展を生活上のすべての局面において権利として普遍的に尊重しようとする文化的諸権利の承認との区別を前提として, 国家内の文化的諸集団がもつアイデンティティに対する法的承認は, 諸個人間の平等な自由の尊重に適合的であるとの結論を導き出した。総じて, 以上の考察により, フランスにおける国家の非宗教性原則, およびその思想的基盤を提供する共和主義の概念につき, それらが現代社会における文化的多様性と両立しうる柔軟な理念として運用されうるという再構成の契機を示すことができた。なお, かかる研究成果の一部は, 下記研究発表の内容に反映されている。
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