2009 Fiscal Year Annual Research Report
国際法学における開発問題の再定位―脱植民地化過程における自決権の機能に着目して―
Project/Area Number |
20730031
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Research Institution | University of Shizuoka |
Principal Investigator |
伊藤 一頼 University of Shizuoka, 国際関係学部, 講師 (00405143)
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Keywords | 国際法学 / 開発 / 自決権 / 発展途上国 / ガバナンス |
Research Abstract |
発展途上国における開発問題の起源は、脱植民地化の過程における国家形成の態様にあるという着想に基づき、本研究では、まず平成20年度に、歴史学や地域研究の知見を手掛かりとしながら、多くの途上国が独立達成の時点で十分な国家性を具備していなかったことを実証的に明らかにした。それに続いて、平成21年度は、そうした国家性を欠く植民地地域が独立を達成しえた背景として、脱植民地化の時期における自決権の機能に着目し、それが国家形成の態様に与えた影響を考察することを研究課題とした。具体的には、国連において植民地独立付与宣言が採択される経緯や、同宣言の実施を監視する目的で設置された24カ国委員会の議論を調査し、そこでの諸国の関心が、植民地の「一律かつ早急な」独立に集中していたことを浮き彫りにした。討議の過程では、多くの植民地地域で依然として部族的な権威が分散・割拠しており、独立後の政権のあり方をめぐって内部対立が発生していることなどが報告されでいたが、そうした状況でも早期の独立達成が一律に推し進められたのである。したがって、この時期における自決権とは、内部での国民統合や実効的国家性の欠如を不問に付す形で、対外的な独立と国家形成を差し当たり先行させる、「外的自決」中心の規範であったことが明らかにかった。これは、言い換えれば、国内の分散した権威構造を克服し、人民全体の意思と利益を反映する形で政治・経済・社会・文化の発展を導くこと、すなわち「内的自決」の実現が、独立後の発展途上国に課題として残されたことも意味しており、自決概念を結節点として植民地の独立と開発課題の生成とを統合的に説明する理論基盤が整ったと考える。そこで次年度は、この意味での「内的自決」に関連する国際法上の規範を体系的に整理・分析し、国際法学が開発問題の解決に向けていかなる関与をなしうるかを提示することで、研究の締め括りとしたい。
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