2010 Fiscal Year Annual Research Report
国際法学における開発問題の再定位―脱植民地化過程における自決権の機能に着目して―
Project/Area Number |
20730031
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Research Institution | University of Shizuoka |
Principal Investigator |
伊藤 一頼 静岡県立大学, 国際関係学部, 講師 (00405143)
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Keywords | 国際法学 / 開発 / 自決権 / 発展途上国 / ガバナンス |
Research Abstract |
本年度は、三年間の研究期間の総括として、国際法学において発展途上国の開発問題を新たな形で理論的に再定位する作業を完成させることを目指した。すでに昨年度までの研究を通じて、発展途上国の開発問題の歴史的な起源は、旧植民地地域が実効的な統治能力ないし国家性を具備しないまま、国際社会における自決権理念の高まりに依拠して一律に独立を達成した点に求められることを明らかにしてきた。つまり、国内で様々な部族的権威が分散・割拠する状態で国家が設立されたため、政策決定や資源配分が特定集団を利する形で行われ、国民全体の統合や発展を促進する契機に欠けたことが、開発の停滞や政治的混乱を招いたのである。そこで本年度は、まず国内の政治的・法的統合の基盤としての主権概念の意義を再評価したうえで、独立後の国家で国民全体の自己統治に基づく政治過程を実現していくための手掛かりを「内的自決」概念に求め、これに関連する国際法上の諸規範の発展過程を体系的に整理・分析した。この点、例えば、条約や国連決議を通じて近年急速に内容の精緻化が進行している少数者の権利や先住民の権利といった人権規範や、世銀等の国際援助機関が融資条件として発展途上国に要求する「良き統治」の概念などを、内的自決との関係を意識しながら意義づける作業を重点的に進めた。以上の検討を通じて、内的自決の促進に基礎を置く新たな開発理念を現代国際法上に位置づけ、国際法学が開発問題に取り組むための基本的な視座を構築することが出来たと考える。今後は、これらの研究成果の早期の公表に向け準備を進めるとともに、本研究で得られた理論枠組みの一層の充実に努めることとしたい。
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