2008 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
20730040
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Research Institution | Kagawa University |
Principal Investigator |
細谷 越史 Kagawa University, 法務研究科, 准教授 (60368389)
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Keywords | 労働者の責任 / 民事法学 / 社会法学 |
Research Abstract |
平成20年度は、主にドイツにおける、使用者の労働者に対する損害賠償請求、契約罰、懲戒処分、解雇などに関する判例・学説の整理・分析に重心を置いて研究を進めた。そこでは、各手段の性格・機能の異同に注意を払い、各手段に対する規制の根拠とそこから導出される基準を明確化しようと試みた。こうした研究により、とくにドイツの損害賠償責任の制限法理については、最近の判例・学説は、リスク責任論を基礎にしつつ労働者保護的論拠(重大な損害賠償責任からの労働者生活の保護の観点など)をも援用する傾向があること、こうした論拠から、最近の有力な判例・学説は、過責の有無・程度を損害の発生との関係で判断し、また、重過失により重大な損害額が生じた事案では、労働者の生活を長く危殆に瀕せしめるべきではないとの観点から、たとえば月収の数ヶ月分ないし賃金の一部による返済を数年でなしうる額にまで労働者の責任を制限すること、などを明らかにすることができた。 このようなドイツの議論動向をふまえて、主に民法学説と判例により形成されてきた日本の損害賠償責任制限法理に労働法の観点から再検討を加えたのが、日本労働法学会第115回大会での報告「労働者の損害賠償責任--ドイツ法を手がかりとして--」であり、大会での議論をふまえて執筆したのが日本労働法学会誌112号掲載論文である。ここでは、ドイツ法から示唆を得て、日本の判例の判断を整理するとともに、労使間での適切なリスク分配を具体的に導きうる論拠(労働の従属性をふまえて報償責任・危険責任法理を解釈・援用するなど)、重過失による重大損害の事案での責任制限の根拠(リスク分配の観点のみならず労基法1条1項などの援用)、責任制限の適用範囲(義務違反は存在するが過責の程度が不明確な事案では適用の可否に慎重さを要する)など、日本の責任制限法理の抱える理論的課題を克服するべき議論の方向性を示すよう試みた。
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Research Products
(2 results)