2010 Fiscal Year Annual Research Report
刑法における情報の保護-営業秘密侵害罪の射程と意義-
Project/Area Number |
20730044
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Research Institution | Otaru University of Commerce |
Principal Investigator |
一原 亜貴子 岡山大学, 大学院・社会文化科学研究科, 准教授 (30400071)
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Keywords | 営業秘密 / 刑法 / 情報保護 |
Research Abstract |
判例研究「不正アクセス行為により取得したパチンコ店の割数及び売上金額等を競合パチンコ店へ開示した行為につき、不正取得後営業秘密開示罪の成立が認められた事例(仙台地裁平成二一年七月一六日判決)」は、営業秘密侵害罪の成立を認めた下級審裁判例を批判的に検討したものである。同判決は、平成15年に行われた不正競争防止法の改正により導入された、営業秘密を侵害する行為に対する罰則が初めて適用された事例である。 論説「営業秘密侵害罪に係る不正競争防止法の平成二一年改正について」では、平成21年に行われた不正競争防止法の改正について、その内容を概観し、これに検討を加えた。同改正により、他人の営業秘密を不正に侵害する行為については、ほぼ網羅的に処罰することが可能となり、営業秘密侵害罪は完成形に近付いたとも言える。しかし他方で、広汎な処罰を可能とするために、営業秘密侵害罪の不正競争としての側面よりも、営業秘密自体の財産的価値を侵害する行為としての側面がより強調されている。そこで、同論文では、営業秘密侵害罪が不正競争防止法の中に規定されていること、並びに同罪と刑法上の財産犯諸規定との関係について、整合的な説明が困難になったことを指摘した。 さらに平成22年度は、ドイツ・ゲッティンゲン大学において、営業秘密の刑事法的保護に関して情報交換を行った。ドイツにおいても営業秘密侵害罪は不正競争防止法の中に置かれており、我が国の規定との比較に適しているため、本研究ではこれまでも文献を通じて比較法的検討を行ってきたが、この情報交換により得られたドイツにおける最新の議論は今後の研究の発展に資するものと思われる。
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