2008 Fiscal Year Annual Research Report
「当事者の自己に不利益な陳述」を通じた紛争定義権能に関する基礎的考察
Project/Area Number |
20730064
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
八田 卓也 Kobe University, 大学院・法学研究科, 准教授 (40272413)
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Keywords | 紛争定義権能 / 主張責任 / 訴訟物 |
Research Abstract |
本研究は、不利益陳述状況(両当事者が互いに矛盾する自己に不利な事実を陳述し合っているという状況)の処理を手がかりに、事実レベルと訴訟物レベルの紛争定義権能との連動構造を解明することをその主内容とする。 本研究従事者は、これまでの研究で、不利益陳述状況の処理としては、日本の通説が採用する主張共通の原則(証拠調べによる処理)は妥当ではなく、一番望ましいのは主張責任にしたがった処理をすること(以下、主張責任説)であるという暫定的結論を得た。 平成20年度の研究では、訴訟物論との関係も意識しながらその主張責任説の積極的な理論的根拠の解明につとめた。その結果、主張責任は「両当事者がともにある事実を主張しない」という場合についての規律であるところ、「両当事者がともにある事実を主張しない」という状況と「両当事者が互いに矛盾する自己に不利な事実を陳述し合っている」という状況は、当事者がともに自己に有利な行動をとらないために判決の基礎となる事実が確定できないという意味で共通する点に求められるという見解に到達した。 また、主張責任説を訴訟物理論との関係で整理したところ、たとえば、(1)原告がAという注射の際の過失を理由として損害賠償請求訴訟を提起したのに対し、被告がAという注射の過失は争いつつ別のBという注射の際の過失は自認した場合、(2)原告が、注射液の不良という過失を理由に損害賠償請求訴訟を提起したのに対し、被告が、注射液の不良という過失態様は争いつつ消毒不完全という過失態様を自認した場合、のいずれについても主張責任説によれば原告敗訴の帰結が得られることになり、主張共通の原則に従った処理の場合には(1)・(2)の扱いに齟齬が生じる可能性があることを防ぐことができることを解明した。 これらは、事実レベルの紛争定義権能と訴訟物レベルの紛争定義権能の関連性を解明する重要な鍵となる。
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