2010 Fiscal Year Annual Research Report
「当事者の自己に不利益な陳述」を通じた紛争定義権能に関する基礎的考察
Project/Area Number |
20730064
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
八田 卓也 神戸大学, 大学院・法学研究科, 准教授 (40272413)
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Keywords | 訴訟物 / 不利益陳述 / 証明責任 / 紛争定義権能 |
Research Abstract |
平成23年度における研究の結果、訴訟物レベルの紛争定義権能と攻撃防御方法レベルの紛争定義権能との対応関係につき、以下のような知見を得た:攻撃防御方法レベルの紛争定義権能を第1次的に原告に与える「相手方の援用しない自己に不利益な事実の陳述」についての有理性審査説は、「訴訟物」についての紛争定義権能に関するドイツの通説的把握である二分肢説と対応する。なぜなら、有理性審査説は、「原告の主張する事実から原告の要求する申立てを導き出すことができるか」が訴訟における争訟プログラムだという理解に基づく。この争訟プログラムは、「事実」と「申立て」の双方を特定する義務を原告に課すものであり、そこで把握される訴訟物は必然的に二分肢説的になるからである。日本における「訴訟物」についての紛争定義権能に関する学説である旧訴訟物理論・新訴訟物理論は、「結論」に相当する権利関係・給付を受ける地位についてのみ原告に定義権能を与える。これと整合し得る攻撃防御方法レベルの紛争定義権能の分配枠組みとしては、「相手方の援用しない自己に不利益な事実の陳述」についての証拠調べ説、証明責任説がある。証拠調べ説は攻撃防御方法レベルでの紛争定義権能を両当事者に平等に与え、証明責任説は、証明責任の所在により攻撃防御方法レベルでの紛争定義権能を分配する。「相手方の援用しない自己に不利益な事実の陳述」単体で見た場合には、証明責任説が妥当だと考えられるが、攻撃防御方法レベルでの紛争定義権能という観点からみた場合、証明責任説は、その分配基準として証明責任が適切かどうかが問題となる。この点を解明することが証明責任説の課題である。 この研究成果は、「相手方の援用しない自己に不利益な事実の陳述」の扱いを、紛争定義権能、訴訟物理論との連関性という複眼的思考の元で考察することを導く点に、意義・重要性がある。
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