2010 Fiscal Year Annual Research Report
高齢化社会における遺言作成プロセスのあるべき姿について
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20730066
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Research Institution | Okayama University |
Principal Investigator |
中川 忠晃 岡山大学, 大学院・社会文化科学研究科, 准教授 (10315038)
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Keywords | 公正証書遺言 / 口授 |
Research Abstract |
本年度は、公正証書遺言の作成プロセスについて研究を行った。公正証書遺言の方式の基本は民法969条によって定められ、同条2号において「遺言者が遺言の趣旨を公証人に口授すること」が求められている。同条はフランス民法972条に由来する規定であり、フランスにおいては「口授」は遺言者の言葉を正確に筆記することとされている。ところが、日本法においては「口授」はいかなるものであるかについては詳細に分析検討されてきたとは言い難い状況にあり、かつ、起草者もそこまでの厳格性を求めていなかったこともあってか、実際の遺言実務においてはこの要件は(意図的に?)かなり緩和されている。そのため、遺言の趣旨を公証人に口頭で伝えることはおろか自分の名前や住所すら満足に言えない状態にある者を前にして、他者(多くは遺贈を受ける予定の者が依頼した弁護士)が作成した(と思われる)文面を公証人が読み上げ、それから公証人が「遺言者」に問いかけるとかろうじて頷いたので「口授」があったとして公正証書遺言が作成されたというケースも存在する(最近のものとしては宇都宮地判平成22.3.1金法1904号136頁がある)。法律専門家である公証人が関与するので形式や内容の不備で無効になるおそれがないとよく説明される公正証書遺言に対して裁判実務や社会が与える信頼は大きい。しかしここで忘れてはならないのは、公正証書遺言に対する社会の信頼は、法律専門家である公証人が法に定める方式に則って厳格かつ厳密に作成しているというプロセスに立脚しているということである。公正証書遺言という方式の存在意義は、形式や内容の不備で無効になるリスクを有しながらも安価かつ簡便に作成できる自筆証書遺言との対比において見いだされる。公正証書遺言に簡便性は必要であろうか。今一度原点に立ち返って検討を試みる必要があろう。
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Research Products
(3 results)