2010 Fiscal Year Annual Research Report
権利客体としての「財産」:フランスにおける権利客体論の検討を契機として
Project/Area Number |
20730071
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
原 恵美 九州大学, 大学院・法学研究院, 准教授 (60452801)
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Keywords | 信託 / 財産管理 / 財産隔離 / フランス民法典 / 集合物 |
Research Abstract |
本年度の研究は、主として、フランスにおける「集合物」論の解明にあたった。近年、フランスにおいては、集合物あるいは包括体(universalite)に関する研究が盛んになされ、多くの成果が公表されている。このような研究の盛況には、破毀院第1民事部1998年11月12日判決の存在を挙げることができる。本判決では、用益権(フランス民法典578条以下)の対象となっている有価証券資産を包括体(universalite)と認定した上で、有価証券資産を構成する個々の有価証券は、新たに取得する有価証券に代替するという負担付きで処分可能であることを認める。したがって、有価証券資産が包括体(universalite)であることを直接の根拠として、構成要素である個々の有価証券の代替可能性を承認した。たしかに、学理上は、19世紀より、権利客体としての「集合物」と財産隔離機能をもつ特別財産を統括する上位概念として包括体(universalite)が措定されており、教科書・体系書において説明されるほどに浸透している。また、特に20世紀前葉から中葉にかけて、営業財産の性質をめぐって包括体(universalite)の議論は進展した。しかし、包括体(universalite)は、個別の特別財産や集合物について統合的・体系的に検討するための「学理上の」概念であり、その形成契機、構造、要件や効果につき安定的な説明が与えられてきたわけではない。にもかかわらず、破毀院判決は、包括体(universalite)の明確な効果として代替可能性を承認したため、フランスにおいてこの判決は大きく注目された。そこで、本年度は、この判決を検討する論文を執筆した。さらに、この判決のインプリケーションにつき、包括体(universalite)論の歴史的展開とその意義の変遷を明らかにした上で、現在のフランスにおける議論状況を検討した。この点については、2011年度に公刊予定の大学紀要において公表する準備をした。
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