2009 Fiscal Year Annual Research Report
医療被害救済における法の仕組みと役割ー補償と保険に着目して
Project/Area Number |
20730085
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
畑中 綾子 東京大学, 大学院・公共政策学連携研究部, JST受託研究特任研究員 (10436503)
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Keywords | 賠償と補償 / 被害救済制度 / 無過失補償制度 |
Research Abstract |
我が国は、近年医療事故における無過失補償制度の議論が加速し、産科分野の無過失補償制度が開始されるにいたった。続いて予防接種をはじめとする各分野さらには医療分野に包括的な無過失補償制度の可能性も探る動きもあり、我が国における無過失補償制度の課題や、社会福祉や社会保障制度との役割分担に関する検討が必要である。本研究では、すでに医療分野で無過失補償制度を導入するフランスやスウェーデン、ニュージーランドの制度との制度比較を行い、日本で部分的に導入された産科無過失補償制度の運用における課題の検討を目的とした。産科無過失補償制度は、まず比較的狭い分野で運用を開始し、徐々にその範囲を拡大することが目論まれていたが、その救済範囲の境界づけにおいて難しい問題を抱える。一つは先天的障害を対象としないために対象から外れた児との補償額の差をいかに正当化するかの点、また一つは、医師に過失があった場合に求償するか、あるいは賠償制度への移行をするのか、それともすべて補償制度で引き受けるかの仕分けの検討である。金銭的救済を行う機関と、原因究明、再発防止を同時に行う機関が同一であることは、たとえその機関が理論的には法的責任とは切り離されていても、原因究明の目的を達成することが責任追及の懸念を背景として困難と理解される。しかし、日本は最終的に金銭救済を行う無過失補償制度の創設過程で、原因究明・再発防止の機能をも期待されることとなった。この制度は他国に比較して、事例の終結までに時間もコストもかかるものの、原因究明を公的機関が担うべきという我が国の姿勢が垣間見える。このような体制は、今後の補償制度の検討でも引き継がれる可能性があり、専門学会の関与や医療安全に関する専門家集団の活用がより期待されることとなろう。
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Research Products
(4 results)