Research Abstract |
平成22年度は,本研究の最終年度に当たる。平成21年度に検討を行った「著作権と表現の自由」及び「知的財産権侵害の準拠法」のテーマについて論文発表を行った。加えて,「著作権の保護期間」を素材として,独占権の在り方について考察を行った。ここでは,平成21年度に構想を示した「文化政策のポートフォリオ」に基づき,著作権の保護期間延長が,文化政策及び文化産業に関係する利害関係者にいかなる影響を与えるのかということについて検討した。 本研究を通して明らかになったことは,例えば著作権制度を例にとれば,それは文化政策達成手段の1つに過ぎず,当然に長所と短所を有するということである。仮に文化的表現の多様化を図るという政策目標を置き,そのために利害関係者の経済的基盤を安定化させることが必要ということであれば,著作権のみならず,国家による補助金や,私的なフィランソロピー(及びそれに伴う税制優遇措置)などとの関係を含め,いかなる手段を組み合わせればよいのかということを真剣に考えることが必要となる。独占権を認めるべきかどうかという点も含め,関係領域及び関係当事者の在り方に鑑み,知的財産権をいかなる強さに設定すべきかという点については,知的財産法だけを眺めていたのでは答えは出ず,問題意識が文化政策全体に位置づけなければならないということが明らかとなった。同様のことは,特許法や意匠法などを含めた産業財産権についても当てはまる。本研究の成果を踏まえ,クリエイティヴ産業などの動向を含め,今後,さらなる理論研究を深め,いかなる文化・産業領域において,いかなる知的財産法の在り方が望ましいのかという問題関心に対する答えを模索していきたいと考えている。
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