Research Abstract |
本研究の目的は,資産蓄積と健康蓄積の実態について,日本の個票データを用いた計量分析を行い,1.何が予備的貯蓄と予備的な時間投資の同時決定を規定するのか,2.予備的な行動は資産と健康の蓄積結果を変えるのか,3.資産と健康の格差に関係はあるのか,の3点を明らかにすることにあった. 前年度までに1,2は終えているため,平成23年度は3について分析を行った.まず,資産階級によって健康を作り出すための行動(具体的には調理という家計生産活動)に差が存在するかについて分析した.分析には,家計毎に毎日の食料品支出が分かるデータを用いて,家計が投入する食材と時間を計測した.分析の結果,生活水準の低い家計ほど家計内で生産される財よりも,健康に良くないと考えられる食料品を市場から購入しやすい,とくに母親がパートタイマーで働いている場合その傾向が見られることが明らかになった.本論文は,9月に『経済研究』に発表し,それを発展させたものを国内外の学会や研究会で発表した. また,豊かな者ほど健康であるのか,資産格差が健康格差をもたらしているのかについて,日本の個人パネルデータに基づき分析した.分析は,健康状態について4段階(悪い,普通,良い,大変良い)で回答された変数を過去5年間の平均資産を含む様々な属性に回帰した.説明変数の一つに前年の健康状態(先決変数)を入れることで,個人の観察されない属性により,資産から健康への因果関係が見えなくなる脱落変数の問題を小さくし,同時に,誤差項の系列相関を考慮したモデルを構築した.分析の結果,豊かな者ほど健康であるという真の因果関係が存在することが明らかになった.また,この因果関係を説明する背景の一つに,豊かな者ほど医療サービスを受けやすいことが示された.この論文は研究会で発表した.
|