2009 Fiscal Year Annual Research Report
輸出品検査と同業者組織の比較経済史 近代東アジアの「公」と「私」を中心に
Project/Area Number |
20730233
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
四方田 雅史 Waseda University, 政治経済学術院, 講師 (60453974)
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Keywords | 産地 / 声価 / 制度 / 同業者組織 / 生糸検査所 / 企業間関係 / 町場 |
Research Abstract |
本年度は、実施計画通り、上海・神戸、そして東京において史料調査を行うことができ、引き続き生糸検査所やゴム製品製造業、マッチ製造業などを事例に取り上げ、日本と中国の「産地」における制度や慣行の違いを分析・比較してきた。まず、生糸検査所については、日本(横浜)と中国(上海)において生糸検査所に対する位置づけが異なっていることを、上海市档案館、外務省外交史料館などに所蔵されている史料を蒐集・分析した。そこからは、生糸検査所の設置をめぐって、製糸業者や買弁.売込商、外国商の検査に対する観点の違いが浮き彫りになったと考えている。具体的には、産地の「声価」重視、産地や産業全体の課題に長期的なコミットメントを行う主体の存在、および販路や品質の問題が絡みあったことが明らかになった。その成果は、平成22年度に刊行が延びたが、「横浜と上海で生糸検査所の成果が異なったのはなぜか?」というタイトルで論文にまとめることができた。くわえて、中小工場が生産の中心的担い手であり、かつ戦前期に日本・中国・他の東アジア諸地域間で競合していたゴム製品製造業・マッチ製造業を取り上げ、引き続き分析を加え、産地秩序の異同を分析している過程である。 本研究を進める中で、産地内で競争しながら(私利を追求しながら)協力も行うというメカニズムにも分析対象を広げる必要を痛感し、コモンズや信頼関係、社会関係資本(Social Capital)に関する研究も渉猟した。さらに、上記の産業が立地していた都市社会(上海と横浜・神戸)について、その成り立ちや社会構造に関する研究もサーベイすることによって、それらから東アジアの各都市に存在していた「公」(政府)、「共」(中間組織)、「私」(市場経済)の関係についても議論を深化させ、各産業の分析という各論を総論とつなぎあわせる枠組みの構築も図ることができた。
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