2011 Fiscal Year Annual Research Report
企業の成長と工業都市の衰退―19世紀後半南ウェールズ製鉄業の企業間関係―
Project/Area Number |
20730235
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Research Institution | Doshisha University |
Principal Investigator |
菅 一城 同志社大学, 経済学部, 准教授 (70276400)
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Keywords | 19世紀後半 / 南ウェールズ / ダウライス製鉄会社 / 地方鉄道会社 / 鉄鋼商 / グレート・ウェスタン鉄道会社 / 物流管理 / 企業間関係 |
Research Abstract |
研究の内容 英国カーディフのグラモーガン州公文書館所蔵のダウライス製鉄会社受信書簡綴りから19世紀後半の全期間のものを網羅的に解読した。同社は当該期の南ウェールズ製鉄業を代表する製鉄会社であり、この書簡綴りも第一級の史料として評価されているが、19世紀後半分は十分に活用されていなかった。当初は製鉄会社間で交換された書簡を念頭に置いていたが、実際は鉄道会社・鋼鉄商など補助産業から受信した書簡を中心に研究した。 この書簡を用いて、19世紀後半にダウライス製鉄会社の物流管理の実態が明らかになった。この時期に有力な輸送手段に成長した鉄道と製鉄業の関係は、一方が輸送サービスを提供しつつ他方がレールと石炭を供給する相互依存的なものであった。しかし、鋼鉄生産と関連金属工業の勃興期であった19世紀半ばには大量の原材料・製品を正しい期日に、正しい配送先に、正しい数量だけ配送することは困難であった。 なぜなら、荷主・仲介者・荷受人が大量の貨物情報を共有することができなかったからである。当初は小規模な地元鉄道会社を頼った製鉄会社は、次第に遠隔地に本拠を置く幹線鉄道会社に依存するようになった。また臨時列車ではなく標準化された時刻表・運賃表に基づいて運行する鉄道網を活用して、物流管理情報を簡素化する一方で、頻繁な書簡の往復を拡大することによって19世紀末には多様かつ変動する需要に柔軟に対応できる物流管理体制を構築するに至った。 意義・重要性 この研究は、これまで等閑視されてきた物流管理の実態を「草の根」レベルから明らかにしたのに加えて、そのような事例からこれまで大量生産・大量消費の二面のみで語られてきた19世紀後半の変化に大量流通・大量情報管理という側面があったことを指摘する意義がある。この点は20世紀の初頭の総力戦体制における経済統制の1つの前提条件としても重要である。
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Research Products
(1 results)