2009 Fiscal Year Annual Research Report
「薬害HIV訴訟」プロセスにおける当事者の社会的孤立の検討
Project/Area Number |
20730321
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
本郷 正武 Tohoku University, 大学院・文学研究科, 助教 (40451497)
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Keywords | HIV / AIDS / 良心的支持者 / 当事者 / 訴訟運動 |
Research Abstract |
本研究は、直接の利益を得られないにもかかわらず運動/集合行為に参加・関与する「良心的支持者」の観点から、おもに「薬害HIV訴訟」に関与した人々、さらには障害児を持つ親の会の事例を検討した。平成21年度は特に、(1)当事者が良心的支持者として振る舞うことで訴訟運動へ関与したケース、(2)良心的支持者との活動を通じてHIV/AIDS観を転換したケース、(3)当事者を支えるためのネットワーク形成、について考察した。 1980年代から続く偏見と差別の渦巻く中で、一部の薬害HIV感染被害者たちは、自身の感染についてカミングアウトすることなく、一人の「良心的支持者」としてエイズ・ボランティアや原告団「支援」活動にコミットしていた。確かにHIV感染は見た目で判断できるものではない以上、感染の事実を打ち明けなければ、運動に関与することは可能であるように思える。しかし、良心的支持者たちと行動を共にすることには、常に自分のプライバシー露見の危険がある。本調査研究では、(1)良心的支持者の集まりの中に一定のルールがなければ、感染被害者が良心的支持者と協働することは叶わないこと、(2)良心的支持者との「社交」を通じて社会との接点を持ち得たこと、(3)組織的活動が「衰退」していると表象されながらも「支援者を支援するネットワーク」により当事者支援が可能となっていること、を明らかにした。これらの知見は、従来の運動参加に関する議論にみられたような、当事者と非当事者とのあいだの葛藤関係とは異なる側面を照射している。 以上の研究成果は、日本保健医療社会学会(熊本大学)での口頭報告、および『医師と患者のライフストーリー』(輸入血液製剤によるHIV感染問題調査研究委員会)にて、3論考と医師・感染被害者の聞き取りの逐語録の形で公表した。
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