2008 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
20730329
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Research Institution | University of Toyama |
Principal Investigator |
伊藤 智樹 University of Toyama, 人文学部, 准教授 (80312924)
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Keywords | セルフヘルプ・グループ / 自己物語 / 物語 / 病いの語り(illness narrative) |
Research Abstract |
一人のALS患者(Sさん、現在65歳)がどのように自己物語を形成し、そこに周囲の他者たち(セルフヘルプ・グループ、家族、医師、援助職、非職業的支援者)がどのように関わるのかを、フィールドワークを行った。平成20年度は、主にラポール形成に重心がおかれた。既に収集された資料からは、病名を知ったSさんが大きな精神的打撃を受けながらも、セルフヘルプ・グループで他者と交わり、自らの体験を語ることを通して、混沌とした自己物語に筋を与えようとしているさまが見てとれる。その一方で、Sさんの自己物語には、「主人公は病いを完全に受け入れた」という読解を阻害するような要素が常に埋め込まれており、物語の変化に開かれた性質も見てとれる。今後もSさんは、自らの病状にあわせて、他者たちとの網の目の中で、物語を紡ぎながら生を営むと考えられるが、そうした中でSさんにとって重要視されているセルフヘルプ・グループは、他の多くの個性豊かな物語の語り手たちが集う場となっている、ということが調査によって明らかになりつつある。また、そうした語り手たち(ピア)を結びつけ、あるいはその他の関わりの中で、患者の自己物語の支え手となろうとする支援者とのやりとりについてもデータを蓄積することができた。そのプロセスはセルフヘルプ・グループ研究のみならず多くのALS患者、そして支援者にとっても有意味になるだろう。
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