2010 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
20730329
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Research Institution | University of Toyama |
Principal Investigator |
伊藤 智樹 富山大学, 人文学部, 准教授 (80312924)
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Keywords | セルフヘルプ・グループ / 自己物語 / 物語 / 病いの語り(illness narrative) |
Research Abstract |
前年度に引き続き、蓄積したデータの分析、および追加調査(医師、ALS患者Sさんの家族、セルフヘルプ・グループの仲間たち、などへの聞き取り調査)を行なった。 既に収集され蓄積されていた、2006年12月のALS専門医との診察室でのやりとりを記録したデータ、およびその後のセルフヘルプ・グループにおける語りが具体的に分析・解釈された。その結果、患者と医師の間に展開された「問い/応答」のプロセスが明らかになり、その際にピアが果たした機能も明らかになった。その一方で、きわめて前向きな変化からこぼれおちる「変わりきれない」部分も浮かび上がり、本事例の場合、それは療養環境をいかに創りだすかということにかかわっていることがわかった。 調査データの分析からは、医師による生への呼びかけ(そのために患者の揺らぐナラティヴにはたらきかける)と、セルフヘルプ・グループの受容的な場、そして患者講師としての自己呈示の場といった、多様な場を通して患者の自己物語形成が行なわれている様が浮かび上がってきた。そこでは、前向きな自己物語形成のプロセスが跡づけられるとともに、現在の社会にあってなお根強い患者の生き難さが、どのようにして患者個人のナラティヴの中に根深いものとなって結実するかも明らかになった。まさに、これらの様態を明確に浮かび上がらせることが、社会学におけるナラティヴ・アプローチにできることである。 このように、本研究は、慎重な分析と解釈の呈示を行ないつつ、調査協力者とも適宜意見交換を行ないながら、最終的な研究成果(単著)の作成への準備を整えた。
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