Research Abstract |
今年度は助産師へのインタビューを昨年度より引き続き実施し,その結果から以下のような考祭を行った。調査対象者は,スノーボールサンプリング手法を用いて調査協力依頼をした助産師8名(助産院に勤務,病院に勤務,新生児訪問等地域活動実施等)。DVケースへの対応の有無(対応をした場合の具体的な対応方法),妊娠・出産期の妊産婦とそのパートナーとの関わりの中で感じたこと,助産師自身の援助について,DVケース対応について,などに関して,半構成的質問によりインタビューを行った。なお,倫理的配慮として,研究の趣旨及び目的,結果は調査目的以外には使用しないこと,個人が特定されないような記録を行うことを説明し,了解を得た後に調査を実施した。 助産師は,援助の場面で,DVに関わる相談を受けたり援助をしたりしていることが明らかとなった。また,妊娠・出産期に,当事者が抱える夫婦間の葛藤・トラブルが見受けられることがあり,助産師は,それらの相談を受けていることも明らかとなった。こうしたことをふまえ,助産師は,DVケースを発見する際の視点や,発見した際の適切な対応方法,DV防止用や活用できる社会資源についての情報を求めていることも明らかとなった。 これら結果をふまえ,「妊娠・出産期におけるDV」問題を焦点化することの重要性を提示したい。それは,DVにおける性的暴力の結果としての妊娠・出産(あるいは中絶)ということと,妊娠・出産期にDVを受けることは胎児にも影響をするということ,の2点による。そして,セクシュアル・ヘルス/ライツやリプロダクティブ・へルス/ライツの観点からすれば,ジェンダーやセクシュアリティに起因する暴力や搾取を,公衆衛生問題として捉え,その問題としていかに解決するかが,セクシュアル・ヘルスやリプロダクティブ・ヘルスを高めるためには必要なことである(WHO 2005)。セクシュアル・ヘルスは,性的な事柄だけではなく,他者との関係も含めた個人のトータルな生においてこそ,その健康な状態が「well-being」な状態として立ち現れてくることからすれば,DVは,親密な関係における暴力であり,暴力が他者の権利を侵害する行為であるからこそ,セクシュアル・ヘルス/ライツの観点から捉えることが重要であるといえる(松島2009)。今後,医療現場におけるDVケースへの適切な対応を促進するシステムづくりが必要とされるが,その際には,DVをセクシュアル・ヘルスの課題として捉え,その対応をセクシュアル・ヘルス・プロモーションとして位置づけることが求められる。
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