2009 Fiscal Year Annual Research Report
児童期から青年期への移行を促進する「勤勉性」獲得支援に関する研究
Project/Area Number |
20730418
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Research Institution | Hokkaido University of Education |
Principal Investigator |
伊田 勝憲 Hokkaido University of Education, 教育学部, 准教授 (20399033)
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Keywords | 青年期 / 児童期 / 勤勉性 / 仮想的有能感 / 共同体感覚 / 劣等感 / 劣等コンプレックス / 心理社会的発達 |
Research Abstract |
青年期の学習活動や職業選択等に見られる諸問題の背景として,心理社会的発達理論における第IV段階児童期(勤勉性対劣等感)におけるコンピテンス(有能感)の獲得失敗を想定し,文献展望および質問紙法等による調査を継続してきた。勤勉性については,Erikson, E.H.の指摘とともに,Adlgr, A.の劣等感および劣等コンプレックスに関する考察を加えた。具体的には,他者の幸福に関心を持つ「共同体感覚」を伴う限り,自分より優れた他者を尊敬しつつ,そこで感じる劣等感はむしろその優れた他者に近づこうとする成長へと導ぐことになるが,「共同体感覚」が欠如すると劣等コンプレックスとなり,優れた他者を否定しながら見せかけの有能感を保ち,自身が変わらない(成長しない)という帰結をもたらすことが推察される。このメカニズムは,速水敏彦の提唱した「仮想的有能感(他者軽視)」の概念が示唆する現象と極めてよく一致する。以上の文献展望等を経て,質問紙法をはじめとする調査を行った。その結果,心理社会的発達理論における第V段階青年期(同一性対同一性拡散)は,第IV段階のみならず第I~第III段階の心理社会的危機と密接に関連していることがわかり,特に谷冬彦の指摘する対他的同一性(本当の自分が他者に理解されている感覚)は第1段階の基本的信頼感に裏打ちされていることが推察ざれた。一方で,対自的同一性(自分のやりたいことが明確である感覚)は第IV段階の勤勉性に裏打ちされていることが明らかになった。これらの知見を総合すると,冒頭に指摘した青年期の諸問題は,対他的と対自的の両面から理解される必要があると言える。すなわち,対他的な面としては,他者との信頼関係や共同体感覚が重要であり,対自的な面としては勤勉性や有能感が重要である。青年の「育ちなおし」の支援も必然的にこの両面から取り組む必要があると言える。
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Research Products
(5 results)