2009 Fiscal Year Annual Research Report
認識論的メタ認知と批判的思考の関連性に関する文化比較研究
Project/Area Number |
20730427
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
C.F. Moises Kirk Kyoto University, 教育学研究科, 助教 (50467411)
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Keywords | メタ認知 / 認識論 / 学習過程 / 文化比較 |
Research Abstract |
先行研究によると、批判的思考(critical thinking)とは、論理的で偏りのない思考であり、物事を客観的かつ多面的、多角的に捉え、基準に基づいて判断する思考である。この批判的思考や批判的思考をする者の特徴には、様々なメタ認知的機能が含まれることが明らかとなっているが、現在研究されているメタ認知(つまり、認知に関する知識と認知の制御の2側面)は、それらすべての機能を網羅しているわけではない。また、従来のメタ認知研究では、主に記述的で一時的な信念のみが研究されており、知識や学習に関する規範的で持続的な信念(個人の認識論)は含まれてこなかったため、批判的思考との関連については、未だあいまいな部分が残されている。 以上のことをふまえて、個人の認識論をメタ認知に組み込んで実証的に検討したCarvalho(2009)は、Carvalho・楠見(2006)の4因子構造の「認識論的メタ認知」モデルを用いて日本の大学生の認識論的メタ認知がどのように批判的思考と関連しているのかを検討した。本研究では、Carvalho(2009)の議論を一歩進めて、日本とフィリピンの大学生において、国際比較を行うため、フィリピンの大学に所属する文学系の大学生を対象にデータ収集を行った。 参加者はDe La Salle大学に所属する大学生250名(男子150名、女子100名、平均年齢18.5歳)であった。結果としては、批判的思考得点を目的変数、認識論的メタ認知の4つの構成因子を説明変数とする階層的重回帰分析を実施した。その結果、日本の大学生のデータと同じようにメタ認知の認識論的側面は、「認知に関する知識」と「認知の制御」を統制しても批判的思考行動を有意に予測することが明らかとなった。モデル1では「認知に関する知識」(beta=.58)と「認知の制御」(beta=.25)の決定係数がともに有意となった。モデル2では「認知に関する知識」の決定係数は有意傾向(beta=.11)しか示さなかったのに対し、「認知の制御」(beta=.32)、「知識構成における責任感」(beta=.64)、「知性に関する理論」(beta=.59)の決定係数は有意となった。 結論としては、2つの異なる国・文化の大学生の認識論的メタ認知と批判的思考との関連性については文化差が見られなかった。ところが、メタ認知の概念を拡大することにより、メタ認知と、批判的思考行動の様々な側面との関連がよりよく説明できることを示唆するものといえる。
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