Research Abstract |
平成22年度は,発達年齢1~2歳頃の自閉症幼児9名を対象に役割交替模倣と自他意識の関連について,昨年度収集したデータをより詳細に分析した。第1に,第二次役割交替模倣(「サカナとタモ課題」により測定)と積極的教示行為及び自己鏡映像認知との連関を検討したところ,第二次役割交替模倣と積極的教示行為との連関は概ね認められたが,自己鏡映像認知だけはやや異なる結果を得た。すなわち,他の2つの課題が未成立あるいは不十分であったとしても,マーク課題にのみ通過した幼児は7名中4名いた。従来から,特に自閉症児のデータに基づいて,マーク課題は客体的自己というような高次の自己意識に基づかずとも,知覚-運動系のマッチングのみで通過できるのではないかとの議論がある。本研究もそれを示唆する傾向であったが,他の2つの課題と連関している幼児もおり,今後も更なる検討の必要性がある。次に,男女1名ずつについて3課題の縦断的検討を行い,更に男児1名については保育場面での参与観察に基づくエピソード分析も行った。その結果,3課題における達成レベルの向上的変化と連動するかたちで,日常場面における男児の自他関係性に変化が生じている様子が示された。また,本男児においては,入学当初のコミュニケーションの困難さが目立ったが,社会的状況を忌避する傾向は弱く,しばしばトラブルを巻き起こしながらも他者との関わりの機会を作り出していった。担任教師との愛着関係が築かれていく頃,エコラリアや同調的な模倣,並行遊び等が見られるようになり,要求として機能する情動(泣き等),ジェスチャーや言語,情動的接触のあるあいさつなどが見られるようになった。そのような変化から,自閉症児においても間身体的な同調性が,自他関係性発達の重要な原動力になる可能性が示唆された。
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