Research Abstract |
近年の研究から,統合失調症患者の障害の中核は,認知機能障害であることが明らかになってきた.統合失調症の認知機能障害は,社会適応と強く関係しており,認知機能の改善が社会適応の改善につながるとされている.しかしながら臨床場面では,1) 同レベルの認知機能障害を持っていても,社会適応が良い患者と社会適応が悪い患者が存在する.2) 同じ治療介入を実施しても、介入後の社会適応が良い患者と悪い患者が存在する.このような個人差が生じる要因については,未だ良く分かっていない. そこで本研究では,統合失調症患者を対象に,客観的なアセスメントツールを用いて,認知機能・社会機能・パーソナリティを評価し,多変量解析を用いて関連を分析し,パーソナリティ特性によって,心理社会的介入の効果が異なることを実証する.本研究は,統合失調症患者の就労支援・自立支援を行う際の基礎資料となるだけではなく,社会適応の心理学的・生物学的研究の基盤となる.また,本研究を元に,エビデンスに基づいたテーラーメードの支援が可能となる. 本年度は,統合失調症患者44名を対象に,神経心理検査・評価尺度・質問紙を実施し,認知機能・社会機能・パーソナリティ(気質・性格)を評価した.調査に際しては,説明と書面による同意を得た.それぞれの指標間の関連を多変量解析により検討したところ,1) 認知機能が悪いほど,社会機能が悪い,2) 性格のうち自己志向性が高いと,全般的な社会機能が良いこと,3) 気質のうち新奇性追求が強いと,認知機能障害が強くなり,陽性症状が重症になることが分かった.この結果は,第5回日本統合失調症学会において発表した.また,統合失調症患者への心理社会的介入に関する雑誌論文4件,学会発表1件を発表した.今後,パーソナリティ特性によって,認知機能障害の改善度が異なることを縦断データから実証し,結果を論文化する予定である.
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