Research Abstract |
本研究は,社会不安障害(SAD)に対する認知行動療法の治療効果を高めるために,主要な治療技法であるエクスポージャーを効果的に実施する方法の開発を目的としている。SAD患者は,対人場面において自分の動悸や震えといった生理的反応に注意を向けやすいため,他者が否定的な表情や態度を示していないことに気づけず,エクスポージャーの効果が得られにくいと考えられている。しかしながら,生理的反応と他者の表情にどのようなバランスで注意を向けているかを直接調べた研究はほとんどなかった。そこで本研究は事象関連電位を用いて,内的刺激と外的刺激に対する社会不安者の注意配分を調べた。今年度は不安を喚起した状態の注意も測定した。課題では,パソコン画面上に他者の表情写真を呈示するとともに,指先に振動刺激を与えボタン押しを求めた。この振動刺激は,実験参加者の生理的変化を示すものであると教示した。写真としては,ネガティブ表情,ポジティブ表情,ニュートラル表情の写真と家具の写真を呈示し,呈示する写真の種類によって生理的反応に対する注意の向け方が異なるか調べた。不安を喚起する条件の参加者には,課題後にスピーチをしてもらうことをあらかじめ教示した。現在,40名からデータを収集した。その結果,不安を喚起しない条件では,社会不安者は呈示されている写真の種類に関係なく,生理的反応に注意を向けることが明らかにされた。一方,不安喚起条件では,社会不安者の生理的反応に対する注意量は不安を喚起しない条件と変わらないが,外的刺激に対する注意が減少する傾向がみられた。現在は,古典的条件づけの消去の原理に関する脳科学の知見に基づいて考案した,第3者になったつもりで脅威刺激に直面するといった情動制御を行いながらエクスポージャーを実施する方法の効果をfMRIを用いて測定する実験を準備している。
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