2010 Fiscal Year Annual Research Report
継続的箱庭制作における体験の連続性に注目した箱庭療法の「治療的要因」に関する研究
Project/Area Number |
20730459
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Research Institution | Bukkyo University |
Principal Investigator |
石原 宏 佛教大学, 教育学部, 准教授 (40378500)
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Keywords | 箱庭 / 箱庭療法 / 体験 / 連続性 / 治療的要因 |
Research Abstract |
本研究の目的は、(1)箱庭制作を行うセッション内での体験と、(2)その体験がセッション間の制作者の日常生活にどのような形で影響を与えるのか、また(3)次の箱庭制作を行うセッションに向けて制作者にどのような心の動きが起きるのか、さらに(4)前のセッションでの体験およびセッション間の日常生活における体験が次のセッションにどのような影響を及ぼすのかといった諸点を明らかにすることにあった。平成22年度は、過去2年間に収集したデータと研究代表者が担当した箱庭療法の臨床事例について、心理臨床経験の豊富な臨床心理士2名とともに分析視点の妥当性をチェックしながら、総合的な考察を行った。 分析を通して、箱庭制作を行うセッション内での体験は、日常生活の時間経過の中で一様の「濃度」を保つわけではなく、セッション直後と次のセッションの直前に、セッション内での体験を思い起こす濃度が高まり、それ以外の多くの時間は日常生活の背景に退いていることが示唆された。また、箱庭制作を行うセッションでの体験と日常生活での体験は、均質な連続性を持つわけではなく、むしろ質の違うものとして体験されることに意味があることが示唆された。このことは、これまでに心理療法が治療的に機能する一つの要因としてあげられてきた、いわゆる「非日常」の体験であることにこそ意味があるという点を改めて確認する結果であると考えられた。さらに、臨床事例の分析から、箱庭療法がクライエントにとって自己表現の技法としてフィットし、箱庭表現が人格変容とパラレルに変化していると考えられるときには、1週間のうちの1時間弱という限られたセッションの時間が、単なる1/168(24時間×7日)の時間としてではなく、その1時間弱に1週間の時間体験のすべて(あるいはクライエントがこれまでに生きてきた時間体験のすべてと言い得る場合もあると想定される)が凝縮されて体験される場合があることが、推察された。 なお、分析はすべて制作者(クライエント)の体験に注目して行ったため、そこにかかわる治療者の存在(治療者の体験)については十分に取り上げることができなかった。この点が今後課題として残された。
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