2011 Fiscal Year Annual Research Report
裁判員裁判における目撃記憶の信頼性評価に関する心理学的研究
Project/Area Number |
20730469
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
石崎 千景 名古屋大学, 大学院・法学研究科, 特任講師 (00435968)
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Keywords | 目撃記憶 / 目撃証言 / 信頼性 / 素朴理論 / 裁判員制度 |
Research Abstract |
本年度は次の2点について検討を行った。第一に、次の2つの研究調査を行い、裁判官および裁判員は目撃記憶の信頼性についてどのような信念を持ち、どのような認知的過程を経て目撃記憶の信頼性を評価するのかについて検討した。(1)裁判官の信念については、判例分析によって抽出を行った。裁判員制度が施行された平成21年5月21日より以前の判例のうち、目撃証言に関する記述を含む判例を最新のものから50件を収集した。また、裁判員裁判の判例39件を収集した。テキストマイニングの手法を用いることで、これらの判例において目撃証言の信頼性の有無がどのように記述されているか分析を行った。(2)市民が目撃証言の信頼性に対して抱く信念については、模擬裁判実験を行い、評議での発話から抽出した。その結果、証人の自信の程度を信頼性評価の根拠とする傾向が見られた。多くの場合、確信度は正確性の指標とならないことが指摘されてきている。本研究の結果は、裁判官や裁判員が目撃記憶の信頼性に対して抱く信念、(素朴理論)と、心理学研究において蓄積されてきた実証的知見とのかい離が、実際の裁判にも当てはまる可能性を示唆している。 第二に、前年度までの成果を踏まえ、目撃記憶(犯人識別)の信頼性を判断する際に参照される情報の重みづけが、先行研究での議論とは異なり、必ずしも個別に行われているわけではない可能性について検討を行った。本年度は、より現実の裁判に近似した状況で検討を行うため、弁護士監修のシナリオ(石崎・荒川・若林、2010)に基づき音声と静止画で公判の様子を提示し、有罪無罪の判断を求めた。その結果、証人の確信度と犯人性の判断とには必ずしも相関がみられなかった。情報の重みづけは、必ずしも情報ごとに独立に行われるわけではなく、事案に含まれる他の情報の影響を受けて、相互作用的に変化すると考えられた。
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