Research Abstract |
3年間の研究計画の最終年次に当たり,研究の対象となる3事例(超重症児1事例,重度・重複障害1事例,肢体不自由を主とする重複障害1事例)について,引き続き,大学における教育相談あるいは対象者の所属機関への訪問により教育的対応を重ね,主としてビデオ映像により記録を収集するとともに研究成果を取りまとめた.ここでは,事例1の研究成果の概要を述べる.事例1は,係わり開始当時5歳3ヵ月の女児である.超重症児スコアは42点.気管切開し常時人工呼吸器を装着.寝たきりの状態で,経鼻経管栄養.人の動きや傍にある光りながら回転する玩具などを注視,追視することがある.大きめの音や人の話し声などに対応した眼球の動きが見出される.眼球運動,瞬き,口元の動きなどによる表情変化があり,不快様の表情や発声も見出される.四肢の運動は,痙攣様の動きが散見されるが,それ以外に表出を視認できる自発的なものは見出し難い.本研究では,筆者の右手の甲の上に本児の右掌を重ね,本児の微弱な入力を感じて筆者が物を操作したりする共同的活動を試み,重ね合わせた掌から筆者が本児の入力を感じた回数と本児の口元の動きの発現数との関連を分析した.その結果,両者の最頻値の時間帯が対応する傾向が窺え,視認できない本児の右手の動きが口元の動きと連動/同期していることが推測された,また,右手の動きの発現に先行して本児の視線が操作対象に向いて注視したり,操作対象が停止した後,数秒後にタイミング良く再度右手の入力があったりすることが複数回確認されている.以上から,本児が口元の動きを伴いながら随意的に右手に力を入れて対象を操作する活動を能動的に展開していると仮定することができる.ここに本児のイニシアチブに基づく共同的活動の進展をみることができる.今後は,上記の仮定の妥当性について,長期間に渡る教育的対応の経過,省察に関する資料に基づき検討を進める必要がある.
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