2009 Fiscal Year Annual Research Report
オーストラリアのトランジションにおける学校教育機能;福祉、雇用との連関
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20730567
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Research Institution | Saitama University |
Principal Investigator |
山中 冴子 Saitama University, 教育学部, 准教授 (90375593)
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Keywords | トランジション / 障害者差別禁止法 / 障害基準 |
Research Abstract |
オーストラリアは2008年7月、国連「障害者権利条約」を批准した。同国の条約批准の過程は概ねスムーズであったが、その理由としては、障害を理由とした差別を禁ずる「1992年障害者差別禁止法(1992 Disability Discrimination Act)」と、それに基づく各分野の「障害基準(Disability Standards)」を既に有していたことが大きい。しかしながら、「障害基準」は現在のところ、公共交通アクセス分野と教育分野しか機能しておらず、とりわけ雇用分野は暗唱に乗り上げている。「障害者権利条約」の目指すインクルーシブ社会の形成と同国の障害者差別禁止枠組みは、同じくインクルーシブ社会の形成を志向しているとされるが、各分野で具体的な差別禁止枠組みを構築しようとすることは容易ではない。 教育の場や内容をめぐるインクルージョンと雇用におけるそれは観点も価値観も異なるが、実際のシステムとしては連動している。筆者はこれまで、1970年代は機会均等の原則が何よりも重視されたが、1980年代後半から導入された経済合理主義的教育・福祉改革から、ノーマライゼーションにおける自立形態として何よりも雇用が重視される施策土壌が強固に築かれ、それが現在に至っていることを明らかにしてきた。その観点からトランジションももてはやされ、様々なシステムと実践が生み出されてきたことは否定できない。そしてこの流れは、1990年代にはいると「福祉から雇用へ(Welfare to Work)」のスローガンに置き換えられるようになる。その際、実際場面で障害を理由とした差別を禁じていく必要性が認識されるに至るのだが、「障害基準」ひとつ完成をみていない状況は、トランジションそもそもの在り方と、それを目指すための基礎となる学校教育の方向性を極めて不明確なものとすると言えよう(経済合理主義的観点からのトランジション自体を問うことも、言うまでもなく必要である)。連邦政府は政権交代を果たして日が浅いが、政権を奪取した労働党は障害者施策の充実を一つの政策的柱に掲げている。今後の動きを注視しなければならない。
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