2010 Fiscal Year Annual Research Report
オーストラリアのトランジションにおける学校教育機能;福祉、雇用との連関
Project/Area Number |
20730567
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Research Institution | Saitama University |
Principal Investigator |
山中 冴子 埼玉大学, 教育学部, 准教授 (90375593)
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Keywords | トランジション / 障害 / オーストラリア |
Research Abstract |
オーストラリアにおいて、障害のある生徒の卒業後の生活へのトランジションは、職業リハビリテーションと学校、それぞれ別建てで発展してきた経緯がある。特に、ニューサウスウェールズ州では、全国初の職業準備センターが設置され、学校では、職業体験プログラムが大々的に実施されるなど、それぞれにおいて先駆的取り組みがなされた。 職業リハビリテーションと学校をつなげる必要性が施策的に認識されるのは1980年代に入ってからのことである。この時期は、OECDなど国際機関がトランジションの理論化を積極的に進めたこともあり、同州では学校と関係各所の連携を視野に、トランジション支援の構造化を模索し始めた。ちょうど、ノーマライゼーションに向けた障害者施策の大改革を経験し、地域生活に向けた取り組みが推進されたこととあいまって、学校におけるトランジション支援の重要性や地域重視(一般就労の推進)の方向性は確固たるものとなった。そして、1980年代後半から1990年代は経済合理主義に貫かれた教育改革、更に、Welfare to Workの動向もあり、学校でのトランジション支援は関係機関と連携し、競争的な雇用現場を想定した実際的な職業教育訓練をその主たる内容とした。ジョブコーチ的役割を担うこともあるトランジション支援専門の巡回教員の配置なども、一つの特徴である。 しかし、教育のそもそもの目的に照らして、トランジションの内容が高校教育段階のそれとして読み替えられることに対する批判は、実は1980年代からあった。1992年の「障害者差別禁止法」に関する苦情の中で最も多いのは、雇用についてである。教育目的に照らした際の矛盾。雇用の場における「合理的調整」の実現がなかなか容易ではない現実の壁。福祉や雇用の動向に大いに左右される学校教育は、トランジション支援において特に顕著でみられることが明らかになった。
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