Research Abstract |
ある地点における1時間毎の風向を記録したデータや,渡り鳥の移動方向を一定時間おきに記録したデータは,個々の観測が円周上の点として表されることから,円周上に値をとる時系列データとみなすことができる.本研究では,円周上に値をとる時系列データのための確率モデルの提案を行い,その統計的性質の考察と気象データへの応用を行った.今年度(平成21年度)では,昨年度(平成20年度)に引き続き,円周上に値をとる時系列データのための確率モデルに関する研究を行った.具体的には,(i)昨年度に提案したマルコフ過程の性質に関する更なる考察,そして,(ii)マルコフ過程を拡張したモデルの挙動について研究した.(i)の研究では,マルコフ過程の最尤法とモーメント法によるパラメータの推定,推定量の漸近的性質,検定問題既存のモデルとの比較,そして,モデル選択に関する考察を行った.また,これらの理論を実際に風向の時系列データへと応用した.(ii)の研究としては,誤差分布としてKato and Jones(2010)による非対称分布を採用したマルコフモデルに関する考察,および,マルコフ過程を拡張した自己回帰過程について研究した.今年度の研究により,昨年提案したマルコフ過程をデータへ当てはめる際に必要な統計的推測の理論において幾つかの結果を得ることが可能となった.また,これらの性質を生かし,実際に風向の時系列データへ当てはめることで,気象現象を予測するための1つのモデルを提案することに成功した.そして,その拡張を考えることにより,より複雑な挙動を示す時系列データに対しても当てはめを期待できる2つのモデルを与えることができた.
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